東京高等裁判所 昭和34年(ラ)902号 決定 1960年3月03日
抗告人 吉池武男
訴訟代理人 山田義夫
主文
本件抗告を棄却する。
理由
抗告の趣旨及び理由は別紙記載の通りである。
よつて考えてみるのに、抗告人が本件競売物件について、昭和三三年一二月二六日東京法務局板橋出張所受附第四五、九四七号を以て同年一一月一五日売買を原因として所有権移転の本登記(抗告人は仮登記と主張するが、これは誤記であろう。)を受けていることは本件記録編綴の昭和三四年六月九日附登記簿謄本(記録八五丁以下)の記載に徴してこれを認めるに足るのであるが、本件は、右抗告人の所有権取得登記の以前である昭和三三年一〇月三一日に債権者より競売申立があり、同年一一月四日競売手続開始決定がせられ、その競売申立のことは同年一一月一一日登記簿に記入せられたものであつて、以上の事実は本件記録に徴して明らかである。従つて抗告人は競売申立登記後に当該不動産の所有権を取得し、且つその登記をしたものというべきであつて、競売法第二七条第三項第四号によつて「不動産上の権利者としてその権利を証明」したときは、これを競売手続上の利害関係人として遇するのが相当であり、従つて本件抗告においては、抗告人の抗告を以て競落許可決定に対し抗告を為し得べき利害関係人からの抗告として、これを適法なものと解するのが相当であろう。
しかし、抗告人のような、競売申立当時の利害関係人でなく、競売申立登記後に目的不動産の所有権を得且つ登記をした者が、競売手続上の利害関係人として遇せられるためには、ただその取得と登記だけでは足らず、競売裁判所に「不動産上の権利者としてその権利を証明」することを要し、しかも右の「証明」とは、当該関係者において、その証明をすると共にその旨の届出をすることを要するものと解すべきである(民事訴訟法第六四八条第四号参照)。然るに本件においては、抗告人の所有権取得及びその登記のことについては競落許可に至るまで抗告人からその届出をした事蹟は何等これを認めるに足るものがないのであるから、原裁判所において抗告人を本件競売手続の利害関係人として遇しなかつたことには何等の違法もなく、競売期日の通知が抗告人にせられなかつたこと、また固より当然というべきである。
従つて抗告人の抗告理由はこれを容認するに由がなく、他に記録を精査しても原決定を取消すべき違法はこれを見出し難いので主文の通り決定する。
(裁判長判事 原増司 判事 山下朝一 判事 多田貞治)
抗告の趣旨及び理由
原決定を取消し本間武に競落を許さざる旨の御裁判を求める。
一、抗告人は、本件物件につき、昭和三三年十二月二十六日受付第四五九四七号を以て、昭和三三年十一月十五日売買を原因として、所有権移転の仮登記を了した。
二、本競売事件に於ては、その競売期日を昭和三十四年三月十六日、六月十五日、八月三十一日、十一月三十日と数回にわたつて措定され、十一月三十日の競売期日に於て本件競落がなされた。然し乍ら、各期日毎に、利害関係人たる抗告人に対して、期日指定の通知がなされて居らないこと記録上明らかである。依つて、右決定は失当であると信ずるので、茲に抗告に及ぶ次第である。